Ethical Split 1
media/size: unique inkjet print on paper, inkjet print on transparent sheet, lenticular lens/ 200 x 400 cm
習作《Study for Ethical Split》の完成形。
《Ethical Split》は2011 年から2013 年にかけて制作された
《Painted Negativity》シリーズ(主に2012 年以降 [2011/2012/2013])のコン
セプチュアルなアプローチを発展させた作品。
《Panted Negativity》は、手を使わずに制作される絵画と
して考案された。《Panted Negativity》の特徴の一つに、
言語の基本構造のアナロジーとして、2つの画面が対にな
るという構造がある。その言語の構造とは、例えば単語な
どの言語を構成する単位の在り方である。2つ以上の単位
の存在を考えた場合、その価値(単語であれば意味)の決
定は必ず単位相互の否定作用によって為される。A はB で
ない限りにおいてA、B はでない限りにおいてB(A and
B, A + B ⇔ A =¬B∧B =¬A)。
《Panted Negativity》のもう一つの特徴は、先に述べたよ
うに、絵の具の垂れや滲みなど、絵画のもつ典型的な現象
を手を使わず生成するという点である。それは以下の私の
考えからもたらされた。それは、《Panted Negativity》が
言語の構造のアナロジーとしてある以上、その制作プロセ
スはアーティスト個人の属性と切り離すべき、ということ
である。
このシリーズでは、2011 年は抽象的な画像だけを、2012
年からは、抽象画像に加えポルノグラフィーを使用してい
る。ポルノグラフィーの使用は、言語のアナロジーとして
のある絵画上に現れる現象に「エロティシズム」を介在さ
せることを可能にした。
そこで新しい特徴として加わったものは以下の機能であ
る。
[a] 鑑賞者の焦点が、視覚的な美しさだけにある場合、鑑
賞者にそれが美しいと感じさせる機能。
[a’ ] 鑑賞者が自分が見ているものが、女性器などのポル
ノグラフィーだと感知した場合に、何を美しく、また醜く
感じるかという峻別に関与する、彼らの「審美的基準= 倫
理的整合性」に不協和をもたらす機能。
これはまた、言語にみられる普遍的な構造である、「表示」
と「内容」の不可分理性に亀裂を入れる試みでもある。
その意味では、上記の[a]、[a’ ] の機能はついには、言語
をそのメタファーやアナロジーとしてのみならず、言語の
機能そのものを直接操作していると言える。
2013 年より、対になって併置される画面を、二層構造を持っ
た一つの画面に統合した。その結果、キネティックで彫刻
的な側面が現れた。
そしてこの《Ethical Split》は、《Painted Negativity》の更
なる発展形として2015 より制作が開始された。
このシリーズは上記[a’ ] の機能̶̶——何を美しく、また醜
く感じるかという峻別に関与する、彼らの「審美的基準=
倫理的整合性」に不協和をもたらす——に力点を置い
ている。
この作品における《Painted Negativity》とのもっとも顕著
な違いのひとつは、ポルノグラフィーだけでなく「死体」
写真を使用していることである(この場合、「死体」は、
ポルノグラフィー同様、労働によって秩序づけられた社会
に混乱をもたらすその「反社会的」性質により、ポルノグ
ラフィーの外延として定義される。したがって、両者とも
にエロティシズムに根ざしたものとして使用可能である)。
もうひとつの《Painted Negativity》との顕著な違い= 物
理的に際立った特徴は、フレームのアクリル版の代わりに、
印刷を施したレンチキュラーレンズを使用し点にある。そ
のレンズは見る角度により複数の画像が切り替わる。
この機能により、このシリーズには、これまでの意味論的
な脱構築(上記と同じく、「表示」と「内容」の不可分理
性に亀裂を入れる試み)に加え、新しい効果̶̶「鑑賞者
の網膜が何を捉えるか」という生理現象に直接作用す
る̶̶が備わった。 つまり、この作品を前にした時、作品
と近ければ近い程、我々は何を見ているかを理解できない。
それは、われわれの目が作品の表面とその奥の両方に焦点
を合わせることができないからだ。